シリコンバレー起業日記

シリコンバレーでSearchManというアプリ開発社向けのマーケティングツールを作っています。

なぜ印鑑(やクスリの対面販売)は必要なのか

僕が楽天(東京)に居た時からずっと続いてた「クスリのネット販売」がようやく解決したようだ。たしか2009年頃からやっているので、4年以上かかったことになる。

 

はっきり言って、「クスリのネット販売」は楽天から見れば(少なくても経済的には)どうでもいい話だ。ケンコーコムは困るかもしれないが、少なくても、楽天の規模から見れば、無視出来るほど小さい。国の経済からみても、「クスリのネット販売」がOKになろうが、なるまいが、GDPへの影響は多分誤差の範囲だ。

 

では、何故こんなに皆が騒いだのか。

 

新経連は「対面・書面原則の撤廃」を訴えている。この「クスリのネット販売」は、「対面・書面原則の撤廃」の氷山の一角、というわけだ。

 

僕はこの「対面・書面原則の撤廃」にもちろん賛成なのだが、2013年の今に、わざわざ経済団体を作って、政府の委員がこんなことを声高に言わねばならないという事実に驚愕したりもする。

 

 海外に住んでみると「ここがヘンだよ、日本」と思うことが良くある。印鑑もその一つ。(最初に断っておくが、僕は、文化としての印鑑はとても格好いいと思うし、残るべきだとは思っている。以下で言う印鑑は、日常生活の個人・法人認証に利用される印鑑だ。)

 

何故だかよく分からないが、日本では、本人を証明するのに印鑑が要求される。銀行口座を作る、大学の入学書類、契約書、あらゆるところで印鑑が要求される。会社によっては、社内の稟議書類に印鑑が必要な場合もあるだろう。ここでの印鑑の役割は「私はこの文書を確認して同意しました」という本人確認の役割を果たす(のだと思う)。

 

でも良く考えて見て欲しい。皆さん、印鑑を忘れたことありませんか?そして「印鑑忘れたなら、近くの書店に行って、100円の簡単な印鑑でいいので買ってきてもらえません?」とか言われことありません?あるいは、友達に頼まれて「XXという苗字の印鑑買ってきてくれない?」と頼まれたことありません?

 

少なくても僕は印鑑を買う・作るのに本人確認を求められたことが無い。つまり、この印鑑というシステムは、個人認証を担うには脆弱すぎる。僕が「鈴木」さんの印鑑を買って、鈴木さんの代わりに印鑑を押すことが出来る。あまりにも簡単だ。

 

これを言うと「いやいや、印鑑証明があります」と言う人がある。役所に行って、印鑑を登録することが出来る。これは死ぬほど面倒臭い。引越しをする度に、住民票が変わる度にやり直さねばならない。そして、最大に問題なのは、銀行口座を作る時などに、「印鑑登録済の印鑑」を求められたことは一度もない。つまり、既にもうインフラとして崩壊している(と僕は思う)。

 

この印鑑が残り続ける限り、「対面・書面原則」は絶対になくならない。保証してもいい。

 

日本以外の先進国ではどうなっているのか。

 

アメリカでは、もちろん文化的に印鑑なんてものは無い。全てサイン(署名)が当たり前のように使われている。アメリカは、契約書等も「電子署名」で良いというルールになっているので、例えば投資契約書のような超重要な契約書であっても、印刷して署名して郵送する、みたいなことをしなくていい。お互い、PDFの状態で、専用のソフトウェアを使って、自分の署名を「電子的に」PDFに貼り付ける。これだけ。

 

銀行とのやり取りも非対面で出来る。何か自分の銀行口座に大きな変更をしなければならないとしよう。事前に担当者に電話して「こういう変更をしたいんだけど、フォームをメールで送って」と言うと、変更内容の全てが記入されたPDFが送られてくる。僕が電子署名をして、送り返すと、それで手続き完了。よほどのことが無い限り、銀行の窓口なんて行かない。銀行も窓口に来る人が減る方がコストが下がる。

 

聞いた話ではあるが、おとなり韓国で90年台に国を上げてIT化を進めた際に最初にやったのは、この「印鑑の廃止」だと言う。

 

サイン(署名)の場合、次のような良いことがある。

  1. (ほぼ)誰でも出来る。道具が不要。(印鑑忘れました、みたいなことが起こらない)
  2. 偽装するのが難しい。(サインを真似るのは非常に困難。)
  3. 仮になりすましや偽装が起こっても、本人の署名かどうかを確認できる技術が割と進化している。少なくても、引越しの度に登録しなきゃならない「印鑑登録」よりはマシだろうと思う。

 

確かにこの方が合理的だ。でも、仮に僕が政府の委員になって、「印鑑を廃止して、全部サインでいいことにしましょう!」と提案したとする。どうなるか。

 

恐らく「ネットのクスリ販売」と同じことが起こる。印鑑の業界団体がものすごい勢いで政府にロビーングして、僕の提案なんてあっという間にかき消されるだろう。多分、1週間かからずに消される。もしかしたら、僕ごと消されるんじゃないかwという勢いで消されると思う。

 

そりゃそうだ。印鑑を作って、売って生きている人たちからすれば、こんなに困ることは無い。そんな提案をする奴は殺したくもなるだろう。

 

そこで一つ提案がある。印鑑で商売をしている人を優先的に「公証人(notary, notary public)」にしてはどうだろう。

 

アメリカでも、超厳密な本人確認が必要な場合がある。その場合、自分でサインしただけではなく、「Xさんは確かにこの書類にサインしました」ということを証明する「公証人, notary」という人がいる。公証人には普通の人でも慣れる。UPS(民営郵便局みたいなところ)などに良くいる。彼らは「公証」するのにお金を取る。そんなに大きな金額ではないが、「この人はこの書類にサインしました」と証明するだけでお金が貰えるので、割といい商売だとは思う。

 

「印鑑を全て無くして、印鑑で商売している人に公証人になってもらう」(そして、「対面・書面原則の撤廃」)というのはいかがでしょうか。