シリコンバレー起業日記

シリコンバレーでSearchManというアプリ開発社向けのマーケティングツールを作っています。

なぜYcombinator(や500Startups)は凄いのか

献本御礼。最近流行りのインキュベーター(ベンチャー企業の初期をサポートするプログラム)の第一人者であるYcombinatorドキュメントリー。生々しい良書。

Yコンビネーター   シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール

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書評を書けるほど偉くないので(笑)、少し考察。

なぜYcombinator(や500Startups)は凄いのか。答えは「プロダクト(製品)のアドバイスが出来る投資家は非常に稀だから」です。文脈的に重要なので、従来型のVC(ベンチャーキャピタル)とインキュベーターの比較をします。

 

従来型のVCは

  • 大体1〜5億円をシリーズAで投資。1/3程度のシェアを取る。
  • 投資タイミングは、トラクション(ユーザー数や売上の伸び)が十分に出てから。
  • 担当者が社外取締役になる。
  • 1パートナーあたり10社が限界(取締役会は大体月1回やるので、10社の社外取締役になると、それだけで10日=月の半分が埋まります。)

他方、インキュベーターは、

  • 創業間もない会社に数百万円を投資。シェアは数%(<10%)程度が一般的。
  • 投資タイミングは、創業間もない(あるいは創業前。僕が500Startupsからの投資が決まった時、まだ会社がありませんでした。僕がインキュベーターのクラスで一番登記が遅くて「お前、早く会社作らねーと金振り込めねーぞ」と良く言われてましたw)
  • 担当者が社外取締役になることはほぼない。(ので、原理的には無限に投資できる。YCombinatorも500Startupsも年に100社程度投資してます。)

という違いがあるとよく言われています。

 

従って、従来型のVCは基本的に、プロダクトのアドバイスとかしなくていいんですよね。もうある程度、プロダクトが出来上がって、トラクション(ユーザー数や売上の伸び)が十分に出てるタイミングで投資するから。言い方は悪いですが「まぐれでも何でもいいから、トラクションが出た会社にだけ投資する」というのが従来型のVCの世界です。

従来型のVCの2つの大きな役割は、

  1. 営業(大きなディールを紹介する、クローズするのを助ける)
  2. 採用(良い人を連れてくる)

だけです。シリコンバレーで凄いと言われるVCはこの2つが凄く上手です。逆に、この2つ以外は、どんなに凄いVCでも期待しない方がいいです。

 

でも、実際に起業した人なら分かると思うのですが、最初はトラクション(ユーザー数や売上の伸び)が十分に出る」状態にするのが、とにかく一番大変なんです。大体ここでコケる。インキュベーターはこのプロセスを助けてくれます。

YCombinatorのポール・グレハムは

「Make something people want(ユーザーが欲しがるものを作れ)」

と良く言っていますし、500Startupsのデーブ・マクルアーは

「Problem first, solution second(何を作るかよりも、解くべき問題を見つける方が先)」

と良く言ってます。これって、どちらも「プロダクトの作り方」の話なのです。従来型のVCは普通、こんなこと言ってくれません。

 

YCombinatorではインキュベーターの期間は、

「1)コードを書く、2)ユーザーと話す、以外の事はするな」(ユーザーが欲しがるものを作る、以外のことはするな)

とよく言われるみたいです。500Startupsでは、

「Design, Data, Distribution」(プロダクトを使いやすくし、あらゆる指標を測定できるようにし、データに基いて顧客獲得せよ)

と散々言われます。

 

この「プロダクトの作り方」のアドバイスをする、というのは実に難しいです。が、一方で、YCombinatorの成功を見て分かるように、分野をまたいで普遍的な能力であるような気もします。

成功した起業家なら、全員「プロダクトの作り方」のアドバイス出来るか、というとそうでもありません。実際、ポール・グレハムは、ViawebというECの会社を作り、Yahooに売却していますが、ITバブルの真っ只中での$50M(約50億円)での売却ですので、シリコンバレー的には「超大ヒット」という訳ではありません。デーブ・マクルアーもスタートアップの創業者としての大きな成功はありません。でも、彼らには、何故か「プロダクトの作り方」のアドバイスが出来るんですよね。不思議な特殊能力と言わざるを得ません。

 

という訳で、YCombinatorという世界最高峰のインキュベーターで何が起こっているのか、起業家たちがどのような「プロダクトの作り方」のアドバイスを貰っているのか、そこに何か普遍的なアドバイスがあるのか、を知りたい人にはオススメの書です。

 

Yコンビネーター   シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール

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