シリコンバレー起業日記

シリコンバレーでSearchManというアプリ開発社向けのマーケティングツールを作っています。

シリコンバレーはなぜ強いのか。

これまで多くの学者が「なぜシリコンバレーは強いのか」、「第二のシリコンバレーを作るには」という研究をしてきました。僕の専攻は技術経営学だったので、この手の論文はたくさん読みました。

でもしっくりくる理屈はありませんでした。シリコンバレーに住んで約4年経って、自分で起業してみて良く分かりました。

 

答えは簡単。「世界中から、優秀な移民を輸入する仕組みがあるから」です。別にシリコンバレーで生まれ育っった人が特別な訳ではありません。シリコンバレーには世界中から、常に新鮮でハングリーで優秀な人材が集まる仕組みがあるのです。

 

なぜ、優秀な移民が多いと、スタートアップが多く産まれるのか。

下世話な話ですが、お金の話をします。所謂「アメリカン・ドリーム」という奴です。

アメリカは世界で一番豊かな国です。アメリカよりも貧しい国に産まれて、「アメリカで一山当てれば億万長者になれる」(そして、家族でいい生活ができて、子供にいい教育を与えられる)というだけでも、移民がアメリカで事業を起こしたいと思うのに十分でしょう。

この移民だけが持つ一山当ててやろう「ハングリー」さというのは、教育で教えるのは難しいでしょうし、本当に苦労ばかりのスタートアップの辛さを乗り越えていくには、一番のエネルギーの源泉とも言えるでしょう。実際、アメリカのテクノロジー起業Top25の多くは、移民1世か2世によって創業されています。

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どのくらいの「優秀な移民」が必要なのか。

アメリカの場合、人口は約3.1億人。うち、13%に相当する4000万人が移民。うち、(全人口の)約1%に相当する400万人が「優秀な移民」です。 

たった1%です。人口の1%分だけ優秀な移民を「輸入」することが、シリコンバレーの強さの源泉です。

 

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アメリカという国は、国の成り立ちからして、人口のほとんどが元はと言えば移民です。日本などアメリカ以外の国で、たった1%でも移民を受け入れようと言おうものなら、大変な騒ぎになるでしょう。これが出来ているのは、シンガポールくらいでしょうか。

 

「優秀な移民」になるのはどのくらい大変なのか

アメリカもいくら移民に寛容だとは言え、誰でもアメリカ人にしてくれるわけではありません。一番手っ取り早いのが、アメリカ人と結婚することです。すぐに永住権が貰え、3年間でアメリカ人になることができます。(上の図だと、そうして帰化した人は、人口の約6%, 1900万人います。)

一番上の赤い部分の「優秀な移民」になるには、通常、以下のステップを踏みます。

  1. 自分に特殊なスキルがあり、専門職ビザ(H1B)を取得して、アメリカの企業で働く。
  2. H1Bビザは最大6年しか有効でないため、6年以上、アメリカの企業が必要だと見なされれば、永住権を申請してくれる。
  3. 永住権が取れて、5年間経つと、アメリカに帰化する権利が得られる。

とてつもない長いステップですが、アメリカはこうして、何重にもふるいにかけて、優秀な人を常に輸入し続けられるシステムを持っています。 

ただ、最近、シリコンバレーの人たちを中心に「ビザが足りなすぎる。もっと優秀な人を輸入すべし」という声が強くなってきています。下の図では、アメリカの大学を卒業する外国人は年に35万人もいるのに、H1Bは年に8.5万人にしか発行できないから、せっかくアメリカに留学して、アメリカに働きたいと思っている優秀な人をみすみす母国にかえしてしまっている(だからもっとビザの発行数を増やすべし)という主張です。

 

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というわけで、政府主導の第三の矢が悪いとは言いませんが、本当に競争力のある経済を作りたいなら、実は「人口の1%」分だけ優秀な人を輸入し続ける、という方法もある、という話でした。

 

追記。

なぜ、ボストンやニューヨークではなく、シリコンバレーなのか、という質問をいただきましたので私見を。

その1。歴史的に見て、西海岸の方が移民に寛容なんだと思います。実際、シリコンバレーにいると圧倒的にアジア系(含・インド系)の人が、東海岸に比べて多いです。

その2。気候も大きいと思います。かなり過ごしやすい気候です。退屈と言えば退屈ですが、4月から10月まではほとんど雨が降らず、毎日カラッと晴れていて、辛いスタートアップ生活の癒しになります。これまた私見ですが、僕はシリコンバレーは「人間が勤勉に働ける最も暖かい気候」だと思っています。シリコンバレーよりも暖かい(例えば、ロスやマイアミに行く)と、もう午後4時くらいになると、ワイン飲みたくなるんですよね。気候が良すぎて真面目に働くのが辛すぎます。シリコンバレーは暖かいのですが、ロスやマイアミほどではないので、人間が真面目に働けるギリギリの暖かさだと思っています。

 

追伸。

久しぶりに日本語でブログを書こうと思って書いています。Tweet、いいねをよろしくお願いします!フィードバックも是非お待ち申し上げます。